2020年09月01日専修大学法学部教授 飯様から 設立に際したメッセージ

田村ご夫妻による社団法人「健太いのちの教室」設立をお慶び申し上げます。ご夫妻とは、研究会で女川を訪れた折、慰霊碑前の語り部で偶然知り合い、健太さんの卒業された大学・学部と同じ勤務先ということもあり、親切にしていただいています。担当する大学のゼミナールの調査訪問にご対応いただき、講義やゼミナールへ何度も特別講師としてお越しいただいているほか、外部での講話や御巣鷹山登山に同行し、ご自宅で美味しい夕食をごちそうにもなりました。

東日本大震災の津波事故で、健太さんという愛しい息子さんを亡くされて、ご夫妻ははかり知れない悲しみを抱えているものと拝察します。しかし、その悲しみを、事故裁判での原因究明および責任追及と、企業における事故の再発防止に転化し、事故からしばらくして、数年間、ほぼ毎週末、変わりゆく天候、寒暖と季節を通じて、慰霊碑の前に立ち続けてこられました。その間、震災に関心のある方などが全国から立ち寄り、またブログやフェイスブックを介して、家族を亡くす悲しみを共有し、命の大切さを尊ぶ人の輪が広がっていったようにお見受けします。

「健太いのちの教室」は、その名の通り、ご子息の失われた命を無駄にせず、いわば残された生きる私たちの学びの糧としていこうというご夫妻の思いをもとに、そのさらなる活動の展開の場として設立されたものです。これまで、事故で家族を亡くしたご遺族の活動により、安全な社会づくりに向けて変化を及ぼし、事故の再発に向けた法改正などにつながった例があります。本法人も、田村ご夫妻が、痛ましい家族の死の悲しみを抱えながら、命の尊さを伝え、共有し、人々の意識のみならず、制度や法の策定や改正を含む社会の変革へ、波及していくことを願ってやみません。

飯考行(専修大学法学部教授)

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