2020年08月03日弁護士・防災士 永野様から 設立に際したメッセージ

田村孝行さん、田村弘美さんご夫妻とはじめて女川町でお会いしたのは、2017年12月10日のこと。ご夫妻が立つその場所からは更地の向こうに女川の海がよく見えました。

私は、東日本大震災発生以降、現地での支援活動を行うと同時に、各地の津波訴訟、津波事案について弁護士として学んでいましたので、七十七銀行女川支店の津波訴訟のことはもちろん承知していました。しかし、ご遺族の口から直接語られる言葉には、判決文からは決して読み取ることができない事件の背景や事実関係、そしてなによりも最愛の息子健太さんへの深い思いが溢れていました。

私が住んでいる静岡県では、南海トラフ地震による津波被害が避けられません。想定犠牲者数は10万人ともされます。田村さんご夫妻が、雨の日も風の日も雪の日もあの女川の場所に立ち続け、語られ続けていることを、南海トラフ地震の被害が予想される静岡の人々に、また私が関与できる全ての人に伝えることが、田村さんご夫妻から学んだ者の責任だと考え、私なりに活動を続けています。

今般、田村さんご夫妻から社団法人設立に際しご相談を受けた際、社団の名称についても意見を求められました。私は、悩んだ末、健太いのちの教室という名称をご提案しました。ご夫妻のあの場所での活動は、まるでお二人が健太さんの分身として語られているように感じられたからです。津波から、また様々な事故や事件からかけがえのない命を守ることの大切さ、難しさを教えてくれているのは、先生である健太さん自身だろうと思います。

この社団を設立されたことで、田村さんご夫妻は、いのちについて語り続けられるだけでなく、不条理な事件や事故により最愛の人との突然の別れを強いられ癒えぬ悲しみと絶望の中にある人々を包み込む役割も果たされるでしょう。私は、引き続きご夫妻から学びつつ、微力ながらその活動のお手伝いができればと考えています。

 

弁護士・防災士 永野 海

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